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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(オ)359号 判決 1962年5月24日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告指定代理人青木義人、同鰍沢健三の上告理由第一点について。

原判決は、木炭の生産業者として昭和二〇年三月頃から長浜工場で鋸屑粉炭を生産して政府に売渡していた被上告会社は、判示のような関係で昭和二三年一一月一六日頃から同二四年一月二八日までの間に右粉炭をその置場所となつていた長浜女子高等学校の校庭とこれに隣接する長浜町有の遊園地に搬出し、長浜農業協同組合に引渡したこと、その数量は二〇七八〇俵であることを判示した上、そもそも愛媛県における薪炭生産者は政府の指定業者である愛媛県販売農業協同組合連合会を通じてその生産した薪炭を政府に売渡すのであるが、この場合市町村農業協同組合は右連合会の代行機関として、同会のなすべき手続をなすのであり、右組合の受取る供出にかかる薪炭はまず県の林産物検査員によつてその品質数量、銘柄等が検査確認され、しかる後政府薪炭検査員により検収がなされ、これによつて政府が右供出の薪炭を買入れたことになり、以後右組合は前示連合会の代行機関として政府のために供出薪炭の保管の責任に任ずる仕組になつていたのであるから、薪炭需給調整規則に基く供出薪炭の売買は政府の薪炭検収員の検収によつて成立し、このときに供出薪炭の所有権は政府に移転するものと解すべきである。故に本件においても、本件鋸屑粉炭二〇七八〇俵の供出による売買は、被上告会社が前示女子高等学校の校庭及びこれに隣接する長浜町有の遊園地に搬出して長浜農業協同組合に引渡し、これを当時検収の任に当つていた梶本重雄が昭和二四年五月二五日前示鋸屑粉炭全部の検収を了つた時に本件鋸屑粉炭の売買取引が本件当事者間に成立したものと認むべきであると判示しているのである。然るに上告人は、鋸屑粉炭は昭和二四年二月四日公布の農林省令第七号により、同年一月二九日以降は前示薪炭需給調整規則にいわゆる木炭の定義から除かれ、鋸屑粉炭については同規則の適用がなくなり、右農林省令第七号には特別の定めがなされていないので、薪炭検収員は、昭和二四年一月二九日以降は、たとい本件鋸屑粉炭のように同月二八日までに薪炭需給調整規則により指定業者に売渡を委託したものであつても、同規則により政府のため鋸屑粉炭を検収する権限を失つたものであるから、前示梶本重雄のなした本件検収も無効に帰し、本件鋸屑粉炭の売買取引は成立する余地がなきに至つたものであるとの趣旨を主張し、本論旨もこれを強調するのである。しかしながら、前示薪炭需給調整規則に基いてすでに搬出納入された鋸屑粉炭については政府においてこれを買上ぐべき義務あるを免れないものと解するのが当然であり、たとい右搬出納入以後前示農林省令第七号が昭和二四年一月二九日以降前示薪炭需給調整規則にいわゆる木炭の定義から鋸屑粉炭を除外したからといつて、すでに納入されている鋸屑粉炭について当該検収員の検収の権限が喪失し延いて鋸屑粉炭についても政府と業者との間に売買取引が成立する余地がなくなつたものとは到底理解することができない。従つてこの点に関する原判決の判断は当裁判所も正当として是認し、これに反する論旨はすべて採用できない。

同第二点について。

しかし、原判決は鋸屑粉炭二〇七八〇俵が所論の場所に搬入され且つ前示検収員によつて検収の了つた時に本件売買取引が成立したと判示しているのであるから、所論のような論議の生ずべき余地がないものと言わなければならない。ひつきよう所論は原判決の趣旨を正解しないものというの外なく、採用できない。

同第三点第一について

しかし、前段説示によつても明らかのように、原判決は所論検収員の検収の権限は本件のような場合には消滅したものと解すべきではないと判断しているのであるから、原判決には所論判断遺脱の違法ありというをえない。所論も亦原判決を正解しないものであつて、採るを得ない。

同第二について。

しかし、原判決はその挙示の証拠に基づき本件鋸屑粉炭二〇七八〇俵が前示高等学校の校庭及びこれに隣接する長浜町有遊園地に搬入されていたと認定しているのであり、これに反する証拠を排斥しておるばかりでなく所論検収調書の作成交付の一事のみによつて右事実を認定しているのではないのである。所論はひつきようするに原審がその裁量の範囲内において適法になした事実認定に対しこれに反する事実関係を主張しつつ右認定を非難攻撃するに外ならないものであつて、採るを得ない。

よつて、民訴三九六条、三八四条一項、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)

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